この記事を読む前に
この記事で扱うAI、Virtual PLC、ソフトウェア化は、すべての工場や設備ですぐに置き換わるという意味ではありません。
2026年8月時点では、従来型PLCを使った設備制御が引き続き広く使われる一方で、メーカーや設備の規模・用途によって、次のような取り組みが進んでいます。
- 設計やプログラム作成を支援するAI活用
- 仮想環境を使ったシミュレーション・事前検証
- PLC機能をソフトウェアとして動かすVirtual PLC
- ITシステムや上位システムとのデータ連携
- 標準化・モジュール化による再利用性の向上
この記事では、現在すでに利用されている技術と、今後広がる可能性がある動向を分けながら整理します。
結論として、PLC制御設計の仕事がすぐになくなるとは考えにくい一方で、制御設計者に求められる範囲は広がる可能性があります。
今後も重要になるのは、次のような基礎です。
- 設備動作とシーケンスを理解する
- I/O、インターロック、異常・復旧処理を設計する
- 電気図面と実機の状態を確認する
- デバッグ・設備立ち上げで問題を切り分ける
そのうえで、通信・ネットワーク・シミュレーション・ソフトウェア設計などを扱えると、対応できる設備や仕事の幅を広げやすくなります。
※技術・製品・サービスの提供状況は今後変わる可能性があります。導入を検討する場合は、各メーカーの最新の公式情報を確認してください。
PLC制御設計は今後どう変わるのか
結論からいうと、PLCがすぐになくなるわけではありません。
変わり始めているのは、PLCそのものよりも、プログラムの作り方・管理方法・周辺システムとのつなぎ方です。
| 項目 | 進んでいる変化 | 当面残るもの |
|---|---|---|
| コントローラー | Virtual PLC・ソフトウェア化 | 従来型のハードウェアPLC |
| プログラム開発 | AI支援・Git・CI | 人による仕様判断と実機確認 |
| 設備との連携 | Edge・OPC UA・MQTT | PLCを中心とした設備制御 |
| 使用言語 | ST・FB・標準化の活用 | ラダーによる保守しやすい制御 |
| 技術者の役割 | ソフトウェア・通信・データまで拡大 | 電気・安全・トラブル対応の実務力 |
つまり今後は、従来のPLC技術を捨てるのではなく、PLCを土台にして新しい開発手法や周辺技術を追加する方向へ進むと考えるのが現実的です。
動向1|Virtual PLC・ソフトウェアPLCの普及
Virtual PLCとは、専用のPLCハードウェアだけに依存せず、産業用PCやEdge環境などでPLC機能をソフトウェアとして動かす仕組みです。
代表例のSIMATIC S7-1500Vは、Industrial Edge上へ配布して一元管理でき、従来のTIA Portalを使って開発できます。CODESYSでもVirtual Control SLの更新が続いており、Virtual PLCは将来構想だけではなく、すでに製品として利用できる段階に入っています。
Virtual PLCのメリットと導入時の確認点
| メリット | 導入前に確認したいこと |
|---|---|
| コントローラーを一元管理・配布しやすい | 運用基盤・ライセンス・ネットワーク構成 |
| 必要に応じて構成を変更しやすい | 処理性能とリアルタイム性 |
| IT型の更新・管理方法を取り入れやすい | セキュリティと更新時の停止影響 |
| 既存の開発環境を活用できる製品もある | 使用機器や既存設備との互換性 |
| ハードウェアへの依存を減らせる | 現場での保守方法と障害時の対応 |
Virtual PLCには柔軟性がありますが、すべての設備をすぐに置き換えるものではありません。
既存設備の改造や小規模な装置では従来型PLCが扱いやすい場合もあります。今後はどちらか一方に統一されるのではなく、設備の規模・性能・保守体制に応じて使い分けられると考えるのが現実的です。
動向2|AIによるPLCプログラミング支援
AIはPLC制御設計者をすぐに置き換えるものではありませんが、コード作成や調査などを支援する実用的なツールになり始めています。
SiemensのEigen Engineering Agentでは、TIA Portalのプロジェクト情報を踏まえたPLCコードの作成・修正、テストロジック、エラー修正、既存プログラムの説明、ドキュメント作成などが案内されています。
AIに任せやすい作業と人が判断すべき作業
| AIで効率化しやすい作業 | 人が最終判断すべき作業 |
|---|---|
| コードのたたき台作成 | 設備仕様に合っているか |
| 既存コードの説明・コメント追加 | インターロックが十分か |
| マニュアルや技術情報の検索 | 異常時に安全な動作になるか |
| ドキュメント作成 | 実際のI/Oと一致しているか |
| 文法・構文エラーの確認 | タイミングやスキャンへの影響 |
| テスト項目の作成支援 | 既存設備との整合性 |
| 定型作業の自動化 | 実機でのデバッグと最終確認 |
PLCは実際の設備を動かすため、AIが作ったプログラムを確認せずに使用するのは危険です。生成結果は完成品ではなく、制御設計者が検証するためのたたき台として扱う必要があります。
今後評価されやすくなるのは、AIだけを使える人ではなく、PLC・電気・安全の知識を持ち、AIの出力が正しいか判断できる制御設計者だと考えられます。
参考:Siemens公式
動向3|PLC開発にもGit・CIなどの考え方が入る
PLC開発では、プロジェクトファイルを「最新版」「修正版」「最終版」などの名前で保存する管理方法も多く使われてきました。
しかし、プログラムが大規模化し、複数人で開発する場合は、変更内容や最新版が分かりにくくなります。そこでPLC開発でも、Gitによる変更管理やCIによる自動確認を取り入れる動きが進んでいます。
Git・CIで改善できること
| 従来起こりやすかった問題 | Git・CIを使った管理 |
|---|---|
| どのファイルが最新版か分からない | 正式な最新版を共有しやすい |
| 誰が何を変更したか分からない | 変更者・日時・履歴を確認できる |
| 修正前の状態へ戻しにくい | 過去の状態へ戻しやすい |
| 複数人の変更が競合する | 差分を確認しながら統合できる |
| 確認作業が担当者任せになる | 一部のビルドやテストを自動化できる |
Gitを導入すれば、すべてのPLCプロジェクトを簡単に比較できるわけではありません。メーカー独自のファイル形式では、一般的なテキストコードのように差分を確認できない場合があるため、専用の比較ツールや運用ルールも必要です。
また、CIで確認できるのは主にソフトウェア上の範囲です。センサーの取付状態、配線、機械動作、タイミング、安全性などは、引き続き実機で確認しなければなりません。
そのため現実的には、履歴管理や自動確認にGit・CIを使い、設備固有の調整と最終判断は人が行うという役割分担になります。
動向4|ITとOTの融合がさらに進む
OTとは、PLC・センサー・ロボットなど、実際の設備を動かす技術です。一方、ITはサーバー・クラウド・データ分析・生産管理などを指します。
現在は、設備データを次のような流れで活用するケースが増えています。
センサー・機器 → PLC → Edge・SCADA → MES・クラウド・AI
PLCで設備を制御するだけでなく、稼働状態・生産数・異常履歴・品質データなどを上位システムへ渡し、見える化や予知保全、生産改善に利用する流れです。
制御設計者が押さえたいポイント
上位システムの開発をすべて担当する必要はありません。ただし、次の点を理解していると、IT担当者や設備メーカーとの連携がしやすくなります。
- どのデータを上位へ渡すのか
- タグ名・データ型・単位をどう統一するか
- どの周期でデータを更新するか
- 通信が切れたとき設備をどう動かすか
- 誰がどこまで変更できるようにするか
- ネットワークとセキュリティをどう分けるか
OPC UAは、メーカーの異なる機器やシステム間でデータを共通化して扱うために使われます。MQTTは、Edgeやクラウドなどへデータを軽量に配信する場面で利用されます。
重要なのは用語を暗記することではなく、PLCのデータがどこへ渡り、通信異常時に設備へどのような影響が出るかを理解することです。
ITとの連携が増えても、安全制御・インターロック・実機動作の確認が不要になるわけではありません。今後は、PLCと設備を理解したうえでIT担当者とも会話できる制御設計者の価値が高まりやすいでしょう。
それでも従来のPLCやラダーがすぐになくなるわけではない
Virtual PLCやAIなどが普及しても、従来型PLCやラダーが短期間で使われなくなるとは考えにくいでしょう。
工場では、一度導入した設備を長期間使用します。新しい開発手法だけでなく、既存設備との互換性、現場での読みやすさ、故障時の復旧しやすさも重要だからです。
ラダーには、次のような場面で扱いやすい特徴があります。
- I/Oの状態を視覚的に確認したい
- インターロックや動作条件を追いたい
- 保全担当者が現場で原因を調べる
- 既存設備のプログラムを改造する
- 電気回路に近い考え方で制御を確認する
一方、複雑な演算や大量のデータ処理では、STやFBが向いている場合があります。
| 方法 | 向いている処理 |
|---|---|
| ラダー | I/O制御、インターロック、異常処理、現場での確認 |
| ST | 演算、データ処理、繰り返し処理、複雑なロジック |
| FB | 共通処理の部品化、再利用、標準化 |
| Git・CI | 変更管理、チーム開発、ソフトウェア上の自動確認 |
今後重要になるのは「ラダーかSTか」という二者択一ではありません。設備や処理内容に応じて使い分け、保守する人が理解できる形にすることです。
新しい技術を学びながらも、PLCの基礎、電気図面、インターロック、実機デバッグ、トラブル対応は引き続き重要です。
これから制御設計者に求められるスキル
新しい技術が増えても、すべてを同時に習得する必要はありません。制御設計者のスキルは、次の順番で広げると整理しやすくなります。
| 優先順位 | 身につけたいスキル | 到達したい状態 |
|---|---|---|
| 1 | PLC・電気・実機デバッグ | プログラム、図面、I/Oを確認して原因を切り分けられる |
| 2 | ST・FB・通信 | 複雑な処理や他機器との連携に対応できる |
| 3 | 標準化・変更管理 | 共通化したプログラムを複数人で管理できる |
| 4 | Edge・IT連携・AI活用 | 設備データを上位へ渡し、AIの出力を検証できる |
最優先は、設備を安全かつ安定して動かすための基礎です。
- PLCプログラムを読んで修正する
- 電気図面とI/Oを確認する
- インターロックや異常処理を考える
- 実機でデバッグする
- 不具合の原因を切り分ける
そのうえで、自分のキャリアに合う方向へスキルを追加します。
設備立ち上げを強みにする
→ 通信、ロボット、画像処理、トラブル対応
制御ソフトを強みにする
→ ST、FB、標準化、Git、テスト
工場全体の自動化へ広げる
→ OPC UA、Edge、上位システム、データ活用
大切なのは新しい用語を広く浅く覚えることではありません。まず一つの設備を理解して動かせる力を身につけ、そこから担当範囲を広げるのが現実的です。
制御設計者の転職・キャリアにはどう影響する?
AIやVirtual PLCが広がっても、従来のPLC経験が急に評価されなくなるわけではありません。
重要なのは「PLCを使った年数」だけではなく、PLCを使ってどこまで仕事を担当できるかです。
| キャリアの方向性 | 強みになりやすい経験 |
|---|---|
| 設備・制御設計の専門職 | PLC、電気設計、実機デバッグ、設備立ち上げ |
| 生産技術・FAエンジニア | 工程改善、設備導入、ロボット・画像処理との連携 |
| 制御ソフトの標準化担当 | ST、FB、共通化、Git、複数人での開発 |
| OT・IT連携に強い技術者 | 通信、OPC UA、Edge、設備データ活用 |
| 仕様・プロジェクト担当 | 要件整理、業者調整、安全設計、進捗管理 |
転職時には、次の内容を具体的に伝えることが重要です。
- どのような設備を担当したか
- 新規設計と既存改造のどちらを経験したか
- 設計・配線・立ち上げのどこまで担当したか
- どのPLCや周辺機器を使用したか
- どのようなトラブルを解決したか
- 改善によってどのような結果が出たか
新しい技術をすべて経験していなくても問題ありません。まずは現在のPLC経験を具体化し、そのうえで進みたい方向に必要なスキルを一つ追加していくのが現実的です。
PLC経験が転職でどのように評価されるかは、「PLC経験は転職で評価される?設備・制御エンジニアの強みになるスキルを解説」で詳しく紹介しています。
経験を職務経歴書へ落とし込む方法は、「設備エンジニアの職務経歴書の書き方|PLC・設備立ち上げ経験の伝え方を例文付きで解説」で確認できます。
よくある質問
AIが普及するとPLC制御設計の仕事はなくなりますか?
現時点では、PLC制御設計そのものがなくなるというより、コード作成や調査など一部の作業をAIが支援する方向が中心です。
設備仕様の判断、安全設計、実機デバッグ、トラブル対応などは現場条件に左右されるため、人が判断する部分は引き続き重要です。
ラダーよりSTを勉強した方がいいですか?
どちらか一方に絞る必要はありません。
ラダーはI/O制御やインターロックなどで扱いやすく、STはデータ処理や複雑な演算に向いています。
まずPLC・ラダーの基礎を身につけたうえで、STやFBまで広げると対応できる設備の幅が広がります。
Virtual PLCはすぐ一般的になりますか?
Virtual PLCはすでに製品化されていますが、すべての設備が短期間で置き換わるとは考えにくいです。
既存設備との互換性、保守性、性能、安全性などを考える必要があるため、当面は従来型PLCとVirtual PLCが用途によって使い分けられる形になると考えられます。
まとめ
PLC制御設計はなくなるのではなく、開発方法と担当範囲が広がっていくと考えるのが現実的です。
この記事の要点は次のとおりです。
- Virtual PLCによってコントローラーのソフトウェア化が進んでいる
- AIはコード作成や調査を支援する段階に入っている
- Git・CIによる変更管理や自動確認が取り入れられている
- PLCとEdge・上位システムをつなぐ知識が重要になっている
- 従来型PLC、ラダー、電気、実機デバッグは引き続き必要
- 新しい技術は基礎を身につけてから追加すればよい
まずはPLC・電気・実機対応の基礎を固め、そのうえでST・通信・標準化・IT連携など、自分の仕事に近い分野を一つずつ広げるのがおすすめです。
PLC通信の実務力を深めたい方は、「PLC通信トラブルの切り分け手順|通信は正常なのに設備が動かない原因も解説」を確認してください。
PLC経験を今後のキャリアにどう活かせるか知りたい方は、「PLC経験は転職で評価される?設備・制御エンジニアの強みになるスキルを解説」へ進んでください。

